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2011年2月13日 (日)

『「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか』を読んで

 卒論発表も終わったので、今週末の連休は名古屋に。ただ、母親が肺炎で急遽、入院になってしまったため、一昨日、今日はお見舞いに。炎症の指標になるCRPの値が入院時は21ぐらいと非常に高い値だったのが、昨日は7くらいに下がったということで、数日中に退院できるといいのですが。昨年から今ひとつの調子のようですが、なんとか踏ん張って体調を戻してもらわなければなりません。

 娘は、本当なら今日はお友達と家でバレンタインデー用の友チョコでなく友クッキーを焼く予定でしたが、明後日から期末試験ということで今日はそのクッキーの下準備だけをしていました。テストが終わったら友達と一緒に焼くとのこと。学校のほうもバレンタインデーあたりに期末試験をもってくるのは作戦なのでしょうか。

 昨日、本屋で買った3冊の本一挙に読みました。その中で印象に残ったのは、「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか:パーソナルゲノム時代の脳科学(宮川剛、NHK出版新書)で、非常に読みやすかったです。本の帯には「血液型占いを信じる人にこそ読んでほしい! 遺伝子に書かれたこころの秘密、あなたはのぞく勇気がありますか?」と書いてあり、一般の人に特に読んで欲しいという著者のお気持ちが前面に出ています。 
この本の著者の宮川先生は遺伝子改変マウスを用いて最先端の行動神経科学を解明している研究者で、利根川先生ともMITで仕事をされており、特に統合失調症やうつ病など、実験動物で研究するのは非常に難しい分野では世界一ではないかと思います。私が昔所属していた藤田保健衛生大学の総合医科学研究所でバリバリ研究されているのもなぜか縁を感じます。自分のこれまでの研究の流れを一般の人たちに分かりやすく書いていますし、更に、自分の遺伝子解析(スニップス解析)をアメリカの遺伝子診断会社でお金を出してやってもらい、その結果を発表しているのも説得力があります。今後のパーソナルゲノム時代を理解してもらうための努力を惜しんでいません。私自身もこの分野は昔から感心がありましたし、この分野に深く関わっていきたいと思っているので少しヒントを頂いた感じにもなりました。自分なりにこの本を読んでもう一回整理して、再度勉強していきたいと思いました。
 日本では、アメリカや中国と異なり遺伝子診断に対する嫌悪感がまだまだあるかと思いますが、何年かすれば否が応でもパーソナルゲノム解析が盛んになり、オーダーメード医療が徐々に社会に浸透してくると思います。その際には、一般の人が不安にならないよう、しっかりと説明できる専門家や、社会自体も法整備をして来るべき時代に備えていかなければならないでしょう。この本の中で著者が言っているように、社会がこういう新しい技術にも対処できる雰囲気になれば、しっかりとした関連ビジネスも成長し、日本の医療全体にもいい影響を及ぼす可能性があります。最先端研究のネガティブな部分を怖がって何も進まないような社会にするのではなく、やはりうまく使って、困っている人を救っていかなければならないのでしょう。
Twitterでこの本のことをつぶやいたら、すぐに宮川先生から有難うのつぶやきが。このあたりのTwitterの即効性とお互いの身近さはブログに無いよさです。

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コメント

松原先生へ
お母様、御心配ですね。うちの親も数年前に『肺炎』になりましたが、あれ、ある程度以上の年齢になると『熱』が出ないのですよね。それで、「何か体調が悪い」。医者に行って初めて『老人性肺炎』と診断されました。でも、今は、良い薬があるので、直ぐに治っていました。
お母様も早く完治されると良いですね。

『「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか』非常に面白そうな中身を匂わせるタイトルですね。サイエンティストとすれば、「こころ」=「脳内活動」や「脳内化学物質」のなせるわざ、って言いたくなりますよね。で、その「個人個人の『脳』の構造の設計図がパーソナル・ゲノムで解る」って言いたいところですけど、

「本当にそれだけで全部解るのかな?」

って言う「疑問」も同時に頭をもたげます。

「こころ」の修行者だったブッダは「こころ」を「観察」しました。
そして、非常に科学的態度で分析した結果、
「こころ」は五感(見る、聞く、味わう、嗅ぐ、触れる)プラス「思考する」で成り立つており、「こころ」は「外界の刺激が五感に触れた瞬間に生じる」ことを「発見」されました。

ブッダの観察では、「こころ」が先で、「肉体」は後。

だから、五感が触れた瞬間に生じた「こころ」が更に「思考」で回転して、「○○をしよう」と言う意志が生じて、肉体を動かす。ただ、確かに「因果律」があって、『今、じぶんの「こころ」が宿っている肉体が、自分に割り当てられているのも因果律のなせるところ』で、「個人の肉体(脳も含む)」の「嗜好・傾向」は否定されていないと思います。
だから、

『「こころ」はある程度は「遺伝子」に左右されるけれども、それは「絶対」ではない』

但し、これは、わたしが頭で理解しているところで、しかも、(多分)間違って解釈していると思います。というのは、わたしが「ブッダの教え」について「浅学」であることももちろんなのですけど、「ブッダの観たもの」は、常人には理解出来ないからでもあります。

さて、宮川先生の「お答え」はいかなものだったのか? 機会があれば、読ませていただきたいと思います。

ところで、アメリカは先進医療を積極的に使いますが、これは一部のアメリカ人ですよね。やっぱり「ガチガチのキリスト教徒さん」たちは「神の領域」「神への冒涜」なんて仰っているのでしょうね。

それに、アメリカは「医療保障制度」が不完全で、お金持ちは、ドンドン先進医療を使うでしょうけど、日本以上に格差社会のあの国では、貧乏人は病気になっても医者にもかかれない。

で、オバマ大統領が「医療保障制度」を改革して日本や欧米みたいにしようとしていますが、

「憲法違反だ」

なんて言われているようですね。その点では、日本の方が、実は「キリスト教的倫理観」も無いし(ブッダにはそんな事には拘りがないです)、やろうと思えばやり易いのではないでしょうか?

ただ、「保険適用外の先端医療」は高額、それも「超」が付くくらい。だから、日本ではそこそこのお金持ちでも、

「そんなにかかるのなら、保険が適用される治療で良い」

と言う人もいます(わたしの知人)。だから、先進医療を広げるなら、いかに「コスト・ダウン」するかですね。もう一つの方法は「保険適用」にすることですけど、これをやると、直ぐに「財政がパンク」しちゃいます。

アメリカで「医療保障制度」が広まらないのは、「コスト負担」、もっと言えば「人種差別問題」があるから、と言う「理由」もあります。

「なんで、黒ん○の医療費を、われわれ白人(概ね収入は黒人よりも上。超金持ちも居るし、プワー層も居ます)が払ってやんなきゃなんねーんだ!」

と言う訳ですね。

と、話はズレてきちゃったかも知れませんが、それとは別件で、わたしのブログで、誠に勝手ながら、先生に「質問」しちゃいました^^;

それは『鳥の祖先、やはり恐竜だった』(みたいなタイトル)の中でなのですが、もしも、差支えなければ、一言だけでも「回答」(「こんな質問は、質問自体がズレている」みたいなお答えでも結構です)いただければ、幸いです。

ややこしいお願いをして、申し訳ありませんm(_ _)m

投稿: Kouryuu | 2011年2月15日 (火) 23時02分

Kouryuuさん

いろいろと考えていただいたことを教えていただき有難うございました。宮川先生もこういう意見をどんどんと寄せてもらいたいと本の最後に書いていましたので、是非今後も、こういうまだはっきりとしたことが分からない分野に関して一般の方(Kouryuuさんの場合は科学者に近いと思いますが)の意見をお願いします。
もちろん遺伝子だけで我々の性質や行動(こころのことも含めて)決まるのではなく、環境というものが大いに影響します。それは一卵性双生児の研究を見れば明らかです。心の問題が全て同じにはならないし、まさにそこに生命の神秘が隠されており、その部分に関しては生命科学がどんなに発展しても明らかにできないのではと思います。一方で生物の設計図はDNAであり、そこには遺伝子、最近では遺伝子以外の領域もかなり重要だと思われています。そういう分子が様々なタンパク質や他の物質を作り化学反応が起こり、生物の代謝あるいは行動なども規定するというのも事実です。それが個人個人で違ってくる可能性があり、パーソナルゲノム、パーソナル化学反応と言ってもいい概念が出てきます。それを医療に応用したいということもあります。もちろん先端医療というのはお金がかかるので、最終的には誰もがタダに近い状況で受けることができなければ意味が無いとは思いますので、そういう方向で技術開発もしていかなければならないでしょう。まだまだこういう分野は大きな壁がたくさんあるようです。

投稿: Mamoru Matsubara | 2011年2月16日 (水) 02時33分

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